椅子の素材はいろいろ

この記事を書いた人
星野勇 有限会社星亀木工所1951年生まれ、私立越生高校木材工芸科卒業、有限会社星亀木工所入社。
父の下で、数々の物件の仕事について従事してきました。
第2回暮らしの中の木の椅子展入選
第3回暮らしの中の木の椅子展入選
2008年「あぐらいす」GOOD DESIGN受賞
公益財団法人 埼玉デザイン協議会正会員
椅子を構成する材料としては、木材が主流ですが、いろいろな場面でその特性を活かして、他の素材も活躍しています。
細かく分けると沢山ありすぎてまとめきれないので、代表的なものをご紹介いたします。
木材を加工した物、成型合板と曲げ木 同じ植物の仲間、籐
成型合板
薄くスライスした単板(ベニア)に接着剤を塗布して重ね合わせ、成型冶具に入れて曲面加工を施した曲面合板のこと。圧着して接着剤を硬化する方法には、電子レンジと同じ原理で木材の水分を中から発熱させるマイクロウェーブ加熱や高周波加熱、そしてによるものがあります。
椅子のフレームなどの小さな部材にはマイクロウェーブ、厚みのある部材には波長の長い高周波、面積の大きいものには低電圧が使われます。曲げ木よりも古くからある成型合板の技術は、第二次世界大戦中に戦闘機の座席やグライダー製造のために大きく発達しました。
チャールズ・イームズが負傷兵のギブスを成型合板でつくり、その後の作品に生かしたことは有名です。
曲げ木
曲げ木の家具といえば、すぐに思い浮かぶのがトーネットの椅子。日本では大正時代初期までブナ材は雑木として木工に使われませんでしたが、ヨーロッパ家具の情報を元にブナを使った曲げ木の開発が進められました。
曲げ木は、水分を与えて熱を加えると可塑性が大きくなる木材の性質を利用して曲線状に加工した在、またはその技法をいいます。
ブナやナラなどの硬く粘りのある材が最適で、無垢材を蒸し煮したあと冶具を使い、棒材は手作業で金型に合わせてクランプで固定していきます。
籐
籐はインドネシアやフィリピンなどの熱帯、亜熱帯に分布するヤシ科の植物。300種類以上ある樹種の中で、家具用材に使われるのは10種類ほどです。骨組として使われる直径の太いものを民籐と呼び、太さによって大太民、太民、中民、幼民と分けられています。民籐の接合は木ネジや釘打ち留めした後、丸籐の表皮を挽いてつくったヒモ状の皮籐によって、補強と装飾を兼ねて巻きが行われたり、座や背が編み込まれます。
加熱曲げ加工には直火曲げ、蒸気曲げ、加熱した砂に差し込む砂曲げがあり、工程は曲げ木加工とほぼ同じ、民籐で骨組みをつくるもの以外では、丸籐の芯(芯籐)を立体的に編み込んで本体とする場合もあります。塗装は、編み上げ後にウレタン樹脂やラッカーで吹き付け塗装を施す普及版と、染料で先染めする高級品があります。
木材以外の素材 金属 プラスチック
金属
金属の椅子というとミースやブロイヤーなど、半世紀以上も前の巨匠の作品が例に出されることが多いようですが、それは金属ならではの性質やフォルムを前面に押し出したデザインのせいかもしれません。現在、家具に使う金属の多くはアルミとステンレス、スチールの3種です。
中でもスチールが最も多く使用されていますが、最近では、コネクター(ジョイントパーツ)を鋳造(ダイキャスト)したアルミでつくっているものが目立ちます。ウイルクハーン社の「ピクト」のように、アルミのリサイクル性に着目した商品もあります。カンチレバーの椅子などにはスチールよりも弾力性に富むステンレスが多く使われます。
プラスチック
プラスチックには熱硬化性樹脂と熱可塑性樹脂の2種類があります。熱硬化樹脂は熱を加えると固まる性質を持ち、ポリエステルではFRP(強化プラスチック)、ポリウレタンでは発泡ウレタンや塗料、そして食器や化粧板に使われるメラミンなどがあります。
逆に、熱可塑性樹脂は冷やすと固まる性質を持ち、射出成形されるポリプロピレンの椅子はその例。
最近では環境保護の観点から、燃焼時に有害ガスが発生する発泡ウレタンや、ガラス繊維を含むためにリサイクルができないFRPなどが問題視されるようになり、ひとつの例として、ドイツのヴィトラ社はイームズやパントンの名作プラスチック椅子を無害なポリプロピレンで復刻して話題になりました。
参考文献
隔月刊インテリア・マガジン「コンフォルト」 2000.12

成型合板の座椅子

座面が籐編みの椅子